BOOK HUNTING

ノンフィクション系の新刊、近刊を平日5冊、週30冊ペースで紹介。児童書から医学書まで。

『自然の鉛筆』ウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボット

『自然の鉛筆』ウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボット

世界最古とされる写真集を出版したウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット。これはその写真集『自然の鉛筆(Pencil of Nature)』の完全訳。

写真史のお勉強をする感覚で、この本をめくっても、おそらくそんなに面白くない。「昔の人は写真を一枚撮るのも大変だったんだなー」とか、「やっぱ荒いよな」とか、そういった感想しか出てこないはず。そうではなく、仮に「人類で最初にカメラを手にし、(絵画とは比較にならないほど)緻密なリアリティを持った写真を撮影できる立場になったら?」と強くイメージして、ページをめくってみるといい。

途端に、タルボットの撮影した写真すべてが、ものすごい熱量を持ち、新鮮なものとして感じられるようになるだろう。表紙の枝も、何気ない街頭の写真も、人物のスナップも、いずれも実は非常に饒舌。自在に世界の一瞬を切り取って、(半永久的に!)手中にできるその興奮が伝わってくる。あたらしい写真術をみずからの手で作り出し、そのための知恵を振り絞る、特別な高揚感も。

この辺のニュアンスが分かった上で、『自然の鉛筆』をめくってみるといい。猛烈に面白いことを保証する。逆に、いまいち分からない状態で接しても、本来の面白みは1000分の1も伝わってこないだろう。

写真術の発見に至るまでの経緯やその重要性をトルボット自ら記した文章と、写真図版一枚一枚に添えられた文章の、初の完全訳。

あわせて『自然の鉛筆』をめぐる写真家、美術家、研究者によるエッセイと、トルボット自身の重要な言葉を収載。

自然の鉛筆

自然の鉛筆

  • 作者: ウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボット,マイケルグレイ,青山勝,畠山直哉,ヘンリー・F トルボット,金井直,ジュゼッペペノーネ
  • 出版社/メーカー: 赤々舎
  • 発売日: 2016/02/06
  • メディア: 単行本
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『俺たち妊活部 - 「パパになりたい!」男たち101人の本音』村橋ゴロー

『俺たち妊活部 - 「パパになりたい!」男たち101人の本音』村橋ゴロー

見ての通り妊活本である。妊活とは妊娠活動の略で、妊娠を目的とした行為および対策に取り組む活動のことであり、笑ってはいけない。当事者たちにとって不妊は深刻な問題で、しばしば不和やウツの原因となる。あまり他人にも相談できない。パートナーの性的倒錯の方がまだ相談しやすい(はずだ)。

この本は、男性サイドの妊活本で、やたらレビューは高評価。「泣けた」「救われた」「感謝したい」といった言葉が並ぶ。本書の読者は、おそらく中年の男女が大半であるはずだが、そんな彼らが「泣けた」だの書いているのだから、よほどシリアスに追い込まれていたんだろう(中年になると、涙もろくなるという側面もあるが)。その辺りのメンタルが一番気になる。

村橋ゴローとその妻「りえちゃん」との不妊治療奮闘記とともに、妊活を体験した男性たちを取材。僕と妊活部員100人の本音・涙と笑いのエピソードが満載。

俺たち妊活部―「パパになりたい! 」男たち101人の本音

俺たち妊活部―「パパになりたい! 」男たち101人の本音

『インフォグラフィックスの潮流 - 情報と図解の近代史』永原康史

インフォグラフィックスの潮流 - 情報と図解の近代史』永原康史

インフォグラフィックスは見ていて目に楽しい。美しいインフォグラフィックスは、あたかも高度に洗練された抽象画のよう。鮮やかな色彩と、無駄のないシャープな輪郭、そして明確な伝達意志が感じられるインフォグラフィックスを前にすると、わけもなく感動してしまう。

この本は、そんなインフォグラフィックスの歴史を、複数の観点から見直し、その本質に迫ろうとしたもの。インフォグラフィックスの本はいくつもあるが、たいていは「作品集」の色合いが濃く、この手のアプローチは珍しい。手元にあれば重宝するだろう。著者はグラフィックデザイナーで、アートディレクターの永原康史

本書はインフォグラフィックの歴史をマップ、統計、図解、関係、コードといった観点から探求し、インフォグラフィックを本質的に理解する視点を提示するとともに、今後の視覚情報のあり方を考える機会を提供します。

『進化系! 筋肉男子の栄養学』竹並恵里

『進化系! 筋肉男子の栄養学』竹並恵里

筋肉男子といえば、ササミを連想してしまう。そして、ササミといえば鶏で、マッチョすぎる男子はシャモを思い起こさせる。軍鶏は、ちょっとニワトリとしてやり過ぎな感じで、「ブロイラーをやめたいのは分かるが、それなら健康的な地鶏あたりでストップしとけばいいのに」と感じてしまうわけだ。いや、この文章、だいぶ意味が分からないな。とりあえず訴えたいのは、マッチョすぎる筋肉男子は、見た目のバランスがシャモ的におかしい。おそらくは、そのマッチョの食生活も。

さて本書は、これまでの筋トレ本にあったような、タンパク質偏重主義を脱し、ヘルシーでありつつ筋肉質なバディをつくるための栄養学を説いたもの。女子目線で書かれた紹介文が、いささか謎だが、理念には賛同したい。生涯現役(意味深)。

結局のところ、女子が求めるのは、今だけのマッチョではなく、生涯現役のヘルシーマッチョなんだから。脱「タンパク質偏重」主義。

進化系!筋肉男子の栄養学

進化系!筋肉男子の栄養学

『バイエルの謎 - 日本文化になった教則本』安田寛

『バイエルの謎 - 日本文化になった教則本』安田寛

「とりあえずビール」と同じように、ピアノを始めるとなると、「まずはバイエル」というスタンダードが日本には定着している。その一方で、なぜビールなのか、なぜバイエルなのか、そもそもビールとは何か、バイエルとは何か? という探求は、意外にもなされていなかった。この本では、そのビールならぬバイエルのルーツを探す紀行だ。

ちなみに最近では、「とりあえずビール」と注文する人が減っているが、やはりそれと同じように「まずはバイエル」という流れも崩れつつあるようで、「バーナムはじめました」「ハノンから」という動きが大きくなっているという。そのうち「若者のバイエル離れ」などと言われる日が来るのかもしれない。

誰もが知る初級ピアノ教則本として、明治以来100年以上、日本人の音楽教育の基礎を担った「バイエル」。でも、その作者の経歴はなぜか誰も知らない。

疑問に感じた著者はチェルニー偽名説、ペンネーム説など通説を再検討する一方、各国のオリジナル初版を手がかりに、そのルーツを探す旅に出た。遠く異郷で出会った驚きの新事実とは? 魅惑の音楽紀行が始まる!

バイエルの謎: 日本文化になった教則本 (新潮文庫)

バイエルの謎: 日本文化になった教則本 (新潮文庫)