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『仏像再興 - 仏像修復をめぐる日々』牧野隆夫

『仏像再興 - 仏像修復をめぐる日々』牧野隆夫

学術的な価値、あるいは骨董的な価値といった、わりあい客観的な要素を持つ仏像は、その重要性を説明しやすい。いわく「有名な仏師が彫った」、「当時の革新的な技術が使われている」、「名のある個人だれそれを偲んでつくられた」、「美術的な価値が高い」、「貴金属や高価な材木がふんだんに使われている」……。

だが、そういった仏像「だけ」が保存されるに値するのかと問われると、俺は直感的に「ちがう」と思ってしまう。無名な仏師により、ありふれた技法で、特に誰のためでもなく、美的に見劣りし、身近な木々をつぎはぎして出来た仏像にも、何かしらの価値を感じてしまうからだ。いや、どちらかというと、そういった仏像の方が、むしろ本来的なあり方なのではないか? そんな風にも考えてしまう。

そういうわけで、この牧野による仏像修復にかけてきた日々の記録には、ひどく興味をひかれる。牧野が見た、かつて人々が仏像を修復するにあたって基づいていた考えの痕跡、それは何であり、いかなる考えに立脚していたものなんだろう。

三十数年にわたり、地方の仏像修復を手掛けてきた「仏像の町医者」牧野隆夫氏による仏像修復の記録。

昔の人々は、仏像の修復を、「再興」という言葉で表し、実践してきた。著者が出逢った仏像たちに残されたその痕跡は、学術資料的価値の保存に偏った、現代の「文化財修理」とは、まったく別の考えに立脚したものだった。

仏像再興 仏像修復をめぐる日々

仏像再興 仏像修復をめぐる日々