BOOK HUNTING

ノンフィクション系の新刊、近刊を平日5冊、週30冊ペースで紹介。児童書から医学書まで。

『シャルリとは誰か? - 人種差別と没落する西欧』エマニュエル・トッド

『シャルリとは誰か? - 人種差別と没落する西欧』エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッドの新刊ね。また新書が出てたんだ」と、ふつうに思ってしまうが、よくよく考えれば、あまりふつうのことではない。トッドの母国でもペーパーバックは出ているものの、いまは1ユーロ130円くらいだから、安いものでも1000円は超えてくる。いかにトッドが日本で人気だとはいえ、ほぼリアルタイムで著者の本国より安く手にできるってのは、そんな当たり前のことではない。本好きにとっては天国みたいな環境だ。思わず「ありがとう、センテンス・スプリング新書!」と快哉を叫びたくなる。

さて本書は、シャルリー・エブド襲撃事件を受けて始まったデモを通して、現在のフランスおよび欧州を覆っている不穏な現状を分析したもの。やっぱデモ大国フランスでも、あのデモは奇異に映ったんだな。まあトッドのことだから、的外れな指摘にはならないだろう。

ところで、最近フランスで起きたデモの中で、俺が感銘を受けたのがある。農業関係者によるデモで、見た目にはかなり過激なパフォーマンスをやってるのに、デモ部外者の市民らはノホホンと見守ってて、フランスの底力を見せつけられた気がした。「彼らが怒るのも無理はない。気がすむまでやればいいさ」と周囲がクールに眺めてる。ただそれだけのことだが、それってちっとも普通のことではない。映像は荒々しいものでありつつ、そこには実際的な暴力の気配がなく(デモ隊にも警備隊にも一線を越える感じが微塵もない)、その高度に洗練された様式に驚いてしまった。あれはすごいわ。

フランス各地で行われた「私はシャルリ」デモ。「表現の自由」を掲げたこのデモは、実は自己欺瞞的で無自覚に排外主義的であった。

宗教の衰退と格差拡大によって高まる排外主義がヨーロッパを内側から破壊しつつあることに警鐘を鳴らす。

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)