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『インスタント リア充 - 人生に「いいね!」をつける21の方法』地主恵亮

『インスタント リア充 - 人生に「いいね!」をつける21の方法』地主恵亮

つい先日、太宰治の次女で作家の津島佑子が亡くなった。R.I.P.

さて、太宰と言えば、私小説だ(もちろん作風はこれに限らないが、一般的なイメージとして)。そう、自身のプライバシーを切り売りして、ときに周囲から反発を買うことも辞さない私小説。20世紀の古い通俗的な作家たちは、この方法によく頼った。「小説のため(あるいは芸術のため)」と称して、酒やギャンブル、不倫に借金など、デカダンを気取り、あえてそれらに溺れて見せた。何ともイタい。

この20世紀的な私小説のスタイルは、いくらか形を変えて21世紀にも生き延びている。いや、生き延びてるどころか、とんでもなく勢力を増している。21世紀の私小説は、ブログやSNSを主戦場とし、やはり20世紀と同じやり方で、自身のプライバシーを切り売りし、デジタルな印税を稼いでいる。

ただし昨今、デカダンは流行らない。代わりにアーバンでスマートでハッピーなコンテンツがよく売れる。そして前世紀の連中が、ネタのために青息吐息したのと同じように、リア充なライフスタイルを偽装するために、スマートフォンゾンビーズは削った魂をオンラインに転送しているのだ。いやはや、何ともイタい!

この本の作者である地主も、一見そういった21世紀の私小説作家と勘違いされがちだ。けれども実は、地主は批評家を兼ねた、私小説の指南番。SNSでハジけてる現代の太宰治に、あれこれツッコむ山岸外史みたいなポジション。いや、マジで。だって例えば現代に太宰がいたら、家出中の女学生でも隣にはべらせて、生配信やってるに違いないからな。

お金持ちだと思われたい、リア充だと思われたい、センスがいいと思われたい、魅力的な人間だと思われたい──。

少しの勇気と知恵でなりたい自分になる21の方法。くだらないし、生産性はゼロ。ただ、これを読んだあとはなんだか元気になれる。

インスタント リア充  人生に「いいね! 」をつける21の方法

インスタント リア充 人生に「いいね! 」をつける21の方法