BOOK HUNTING

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『影の権力者 - 内閣官房長官菅義偉』松田賢弥

『影の権力者 - 内閣官房長官菅義偉松田賢弥

しまった、またもや現役の政治家に関する本だ。だが安心してほしい。この本では、政治家 菅義偉に迫れていないのだ。政治ジャーナリスト松田賢弥としては、痛恨のミスであるように思える。レビューもさんざんだ。「明確な菅像がつかめなかった」、「本人にフォーカスされていない」、「結局その人となりが分からなかった」……。

しかし、それでこそ菅についての本だと言えないだろうか。いかにも叩き上げで、じっと他人の言葉に耳を傾け、決して無駄口をはさまず、本当のところは何を考えているんだか分からない、あの手強い政治家 菅義偉そのものの本であるように思われる。著者の松田は、菅に肉薄できなかったことを悔しがっているだろうし、菅の実像を知りたがった読者も歯がゆかったろう。でもどうだろう。逆に「これが菅義偉という人です」と安直に描かれた方が、ガックリするのではないか?

というわけで、俺にはこの失敗作の本書が、逆説的に良書であるように感じられてならない。描こうとしても描けなかった菅義偉こそ、菅らしさであり、その得体の知れなさに繋がっていると思うからだ。ディティールまでドンピシャな菅義偉の本があったとしたら、反対にそれこそ失敗作である気がする。

二世、三世議員が大手を振るう中央政界にあって、秋田出身で、地盤、看板、鞄の三バンなしの「最強の官房長官菅義偉は、いかにして影の総理とまで噂される地位にたどりついたのか?