BOOK HUNTING

ノンフィクション系の新刊、近刊を平日5冊、週30冊ペースで紹介。児童書から医学書まで。

『進め!! 東大ブラック企業探偵団』大熊将八

『進め!! 東大ブラック企業探偵団』大熊将八

こういう本を書くのは、青山や明治のイメージがあったけど(慶応でも可)、東大ってのが時代を感じる。日本経済の末期的な様相。表紙のユルさに反して、企業分析はしっかりしてる。ノベライズなので、ノンフィクションと言えるか迷うところだが、内容的にはノンフィクションだな。

それにしても東大生がブラック企業の調査に手を出すというのがなあ……。そのレベルにまでブラック企業が日本中に蔓延してるってことだろ。もうヤバいって段階を超越してると思う。

実在する「Tゼミ」(瀧本哲史京大客員准教授が顧問)をモデルにした、東大本郷キャンパスに部室をおく「秘密結社」。

問題企業、業界を徹底分析して実態に迫る、「Tゼミ」企業分析ノートのノベライズ。

進め!! 東大ブラック企業探偵団

進め!! 東大ブラック企業探偵団

『トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」』山本紀夫

『トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」』山本紀夫

『トウガラシ讃歌』、『ジャガイモとインカ帝国』、『インカの末裔たち』などの著作がある山本紀夫によるトウガラシの新書。中南米を原産地とするトウガラシに関する書籍なので、その仕事のブレなさに拍手。

辛い食材のあの独特の中毒性は何だろうな。最初は苦手だったのに、今やもうコショウ、ニンニク、トウガラシは手放せない。逆にこれがあれば、たいていのどんなマズい料理でも、そこそこのレベルにまで引き上げられる。たしかに計算しやすくて便利(それはもう革命的に)。

比類ない辛さが魅力のトウガラシ。原産地の中南米からヨーロッパに伝わった当初は「食べると死ぬ」とまで言われた。だが、わずか五百年のうちに全世界の人々を魅了するに至った。

『あなたの魅力を爆発させる方法』山田マキ

『あなたの魅力を爆発させる方法』山田マキ

いかにも狙ってそうなタイトルとは裏腹に、老若男女を問わず好まれる魅力を探った渋い本。「人の魅力とは何か?」と考えれば、最終的に表面的なアレコレはすべてそぎ落とされ、その人の素があっけらかんと出ている瞬間に発揮されるものなので、著者山田のモテ苦労は報われたものと思う。

そういうわけで、魅力を厚塗りする努力は、だいたいにおいて逆効果で、素を積極的に見せていった方がいい。ただし、その素がクソだと、どうしようもないので、地道に素を磨くしかない。人徳とか人間力とか、その辺。急がば回れが最短ルート。

単に男性ウケを狙った本ということではなく、老若男女に愛されるような「本物の魅力」とは何かと考えさせられます。女性目線での自分磨きではなく、客観的で地に足のついた内容になっているのが最大の特徴。

あなたの魅力を爆発させる方法

あなたの魅力を爆発させる方法

『外為決済とCLS銀行』中島真志

『外為決済とCLS銀行』中島真志

『決済システムのすべて』、『証券決済システムのすべて』、『SWIFTのすべて』で知られる中島真志の新刊は、CLS銀行モノ。ちなみにヘルシュタット・リスクを軽減するためG20の合意に基づいて設立されたのが、CLS(Continuous Linked Settlement)銀行。そんでヘルシュタット・リスクは、国際的な通貨決済で生じる時差リスクのこと。

バーゼル銀行監督委員会は、このCLS銀行の利用をほんとんど義務付けてて、いまや世界のインターバンク取引の約80%がCLS銀行を通じて決済されてるのに、なぜか日本での認知度は低い上、利用率もダメ。おそらく中島は、なかば義憤に駆られてこの本を書いたと思う。

本書は、外為取引・外為決済の仕組みと、近年の外為決済の新潮流であるCLS銀行について、詳しく解説した本邦初の書籍です。実務家にも研究者にも非常に有益な一冊です。

バーゼル銀行監督委員会「FX監督ガイダンス」の全文も収録しています。

外為決済とCLS銀行

外為決済とCLS銀行

『何かのためではない、特別なこと』平川克美

『何かのためではない、特別なこと』平川克美

あーもう、紹介文からしてカッコいいし、その上でタイトルを読むとさらに味わい深い。本書は『復路の哲学』の続編的な位置づけになるのかな。さて、例えばダラダラとネットに接続してるとき、「即効性があり、有用で、刺激的なもの」を必死に探し、そればかりを追っているはずなのに、オフラインに戻ったときの、あの充実感のなさ。考えれば、すごい謎だ。

なぜならネット徘徊してる時は、一瞬たりとも退屈な時間をすごしていないはずで、ずっと有用な何かに接してきたはずなのに、ほとんどまったく何の満足感も残っていない。となれば、その時間は一体なにをして過ごしてきたのか。逆に、何をしたら充実感を手にできるのか。

ヒントの一端は、この本に書かれている。しかし、どっぷり今の潮流に染まった人間は、そのヒントを見落とすだろうし、「これがヒントです」と示されたところで、理解できないだろう。嗚呼。

本書は「即効性があり、有用で、刺激的なもの」ばかりを追い求めるようになった現代に対する、ささやかな抵抗である。

死を迎えるという自然の摂理の側から、世の中を見直してみると、それ以前とは全く違った光景が視野に入ってきます。それまで、重要だと思っていたことが、実はとるに足りないことであり、どうでもいいと思っていた儀礼や習慣が、人類史的な意味を持つ大切なことであることに気付かされるのです。

何かのためではない、特別なこと

何かのためではない、特別なこと