BOOK HUNTING

ノンフィクション系の新刊、近刊を平日5冊、週30冊ペースで紹介。児童書から医学書まで。

『うるうのもり』小林賢太郎

『うるうのもり』小林賢太郎

ラーメンズ小林賢太郎といえば、ほころびを見つけるのがウマい。あるいは、ほころばせるのがウマい。すなわち、理詰めで話を作っていって、それが破綻するところを上手に見せてくれる。稀有な才能。そのセンスは絵本でも健在だ。

「うるう年」があれば、「うるう秒」もあるわけで、それなら「うるう人」が存在してもおかしくない(錯乱)。言葉の上では何も間違っていなくて正しい。だがやはり間違っている。その崩れたバランスを保ちつつ、物語はスピンする。しかし崩れたバランスは、最終的には崩れた状態を保っていられず、やがてスピンは終わってしまう。その均衡に美を、ないしは崩れる姿に哀しみを見るだろう。

うるう年のうるう日のように、「余りの1」が世界のバランスをとることがある。人間もそう。

世界でたったひとりの余った人間「うるうびと」。彼が少年と友達になれなかった本当の理由とは。おかしくて、美しくて、少し悲しい、ある友情の物語。

うるうのもり

うるうのもり

『リトヴィーノフ - ナチスに抗したソ連外交官』斎藤治子

『リトヴィーノフ - ナチスに抗したソ連外交官』斎藤治子

旧ソ連の外交官マクシム・リトヴィノフの激アツな人生を辿った一冊。リトヴィーノフのことは、まったく知らなかったが、ちょっとプロフィールを見ただけでも、かなり波乱万丈な一生だ。

この本では、主に対ナチス方面におけるリトヴィノフの動向を追ったものだが、それだけでも一冊の本になってしまう程のボリューム。今のところ日本語で手に入るマクシム・リトヴィノフ関連の書籍としては、これが唯一のもののようで、さらに知りたくなったらロシア語か英語の文献に当たるしかない。この出版を機に、マクシム・リトヴィノフの翻訳書が増えることを願いたい。

『わが闘争』にヒトラーの凶暴をいち早く見抜いたリトヴィーノフは、その計略を阻止すべく警鐘を鳴らす。しかし、各国の思惑やさまざま事情はナチスの急速な台頭を許した。大粛清を生き抜き、侵略を否定して、ねばり強く完全軍縮をめざし、平和理念を貫いたロシア外交官の生涯を描く。

リトヴィーノフ ナチスに抗したソ連外交官

リトヴィーノフ ナチスに抗したソ連外交官

『売れるハンドメイド作家の教科書』中尾亜由美

『売れるハンドメイド作家の教科書』中尾亜由美

「ネットでお小遣い稼ぎ!」といえば、アフィリエイトやオークション、ポイントサイト、ブログライターに内職系ビジネスなどが知られているが、どれもこれも基本的には稼げない。徒労という言葉が一番しっくり来る。まったく割に合わない。時間のムダなので、やめた方がいい。

しかし、堅実に稼げて、かつ、自分の手を使った実感があり、買い手との交流も楽しめる分野があり、それが手芸・クラフト系クリエイターだ。インフラは十分に整っているし、元手もそんなにかからない。求められるスキルはピンキリだが、そこはモチベーションを高く保ち、経験を積み重ねることで、どうにでもなるだろう。

さて、この本の著者はハンドメイド作家として16年のキャリアを積み、自身のブランディングにも成功している。その上、「お友達価格から正規価格へのシフトのしかた 」、「気持ちをこめたお届けのしかた」、「8割のお客様が自然にリピートしたくなる秘訣」など、知りたいノウハウを惜しげもなく披露している。この方面に興味があるならば、目を通しておいて損はないだろう。

なお、「安くで既製品が手に入るのに、この時代にハンドメイド?」と思う向きもあるかもしれないが、それだからこそ手作りの価値が出ているわけで、その辺のリアリティがピンと来ないならば、とりあえずデザイン・フェスタあたりに足を運んでみるといい。

500円の雑貨からはじめて、2万円のワンピースが売れる作家になろう。手作り商品で利益を得るノウハウ。

売れるハンドメイド作家の教科書

売れるハンドメイド作家の教科書

『がん哲学外来へようこそ』樋野興夫

『がん哲学外来へようこそ』樋野興夫

順天堂大学がん哲学外来の案内書。がん治療と言えば、外科手術、薬物療法放射線治療あたりがメジャーで、哲学外来は飛び抜けて異色だ。しかし、生死に関わる病であるガンともなれば、哲学外来があっても不思議ではない。いや、むしろ、あった方がいい。

この本では、そのがん哲学外来に勤める樋野による「こころの処方箋」を紹介している。ところで、生死に関わる病、あるいは人の一生を左右する病は、ガンに限らない。となれば、ガンに限定しない哲学外来があってもいいだろう。その潜在的なニーズは大きいと思う(精神科では対応しきれない領域と考えるから)。

がん患者が次々入っては、笑顔で出てくる外来がある。その名は「がん哲学外来」。治療の不安から人間関係の悩みまで、主治医には打ち明けづらいあらゆる相談に著者は答え続けてきた。

がん哲学外来へようこそ (新潮新書)

がん哲学外来へようこそ (新潮新書)

『正義の境界』オノラ・オニール

『正義の境界』オノラ・オニール

ジョン・ロールズに学んだオノラ・オニールの初邦訳。オニールについては、TEDのこの動画で見たことがあるかもしれない。けっこうな高齢。

さて、オニールいわく「国境はもはや正当な正義の境界として見なしえない」。こう言われて逆に、国境を(政治的な)正義の境界線と見なす視点があったことに気づかされた。いや、現代ではあまりにも国境の意味が薄れすぎていて、国境と正義をリンクさせる視点そのものを持ててなかった。なるほどなるほど、それでグローバルな正義の構想へとシフトしてくわけだ。いいじゃん。タイトルにも納得。

正義の「哲学的な境界」と「政治的な境界」に関わる問題を、カントの政治哲学を用いて探求する。ポスト・ロールズ時代のカント主義哲学は、われわれの「正義」に何をもたらすのか? そして、ロールズのなしえなかった義務論にもとづくグローバルな正義の構想とは。

正義の境界

正義の境界